社長から「うちもDXをやってくれ」と言われても、専任のIT担当者がいない会社では、何から手をつければよいのか分かりません。そのまま時間だけが過ぎがちです。
結論として、最初にやることは業務の棚卸しです。紙の日報や勤怠、Excelでバラバラの顧客情報など、具体的な業務を1つ選びます。社長から進め方の承認を得てから動き始めます。
着手してから数ヶ月後まで、何ヶ月目に何が終わっていればよいのかという時間軸
1ヶ月目は棚卸しと対象業務の決定、2ヶ月目はツール選定と現場での試用を行います。3ヶ月目は改善と社内ルール整備という3段階で進みます。
この期間の区切り方は、AIを毎月使えるようにする支援でも同じ考え方が使われています。初月に業務の棚卸しを行い、2ヶ月目にツール選定とプロンプト・手順書を渡して社員が実務で使います。3ヶ月目にうまくいかない箇所を直して社内ルールを整え、減った時間を数字で記録するという流れです。
3ヶ月というのは、ゼロから1つの業務をAI化して定着させるまでの目安です。4ヶ月目以降に2件目の業務へ広げるかどうかは、1件目の結果を見てから判断します。焦って複数の業務を同時に始めると、どれも中途半端になりやすくなります。まず1件を最後まで動かし切ることが先です。
- 1ヶ月目:業務の棚卸しと対象業務の決定
- 2ヶ月目:ツール選定、プロンプト・手順書を渡して試用
- 3ヶ月目:改善、社内ルール整備、減った時間の記録
紙の日報・勤怠、Excelでバラバラの顧客情報、口頭とメールの承認という具体業務を、どの順で手をつけるか
最初に手をつけるのは、頻度が高く、社外の判断が絡まない業務です。紙の日報・勤怠が最初、Excelの顧客情報が次、口頭・メールの承認は最後に回します。
日報や勤怠は毎日発生し、書き方も比較的定型です。ここでつまずくと、それより難しい業務でもつまずきます。まず社内で完結する定型業務から着手すると、失敗しても影響が小さく、やり方を修正しやすくなります。
Excelでバラバラの顧客情報は、日報より手間がかかりますが、社外の相手を巻き込まずに整理できます。一方、口頭やメールでの承認作業は、取引先や社外の人が関わることが多く、ルールを変えると相手にも影響します。承認業務は、社内の2つが動いてから着手する順番が安全です。
- 紙の日報・勤怠から着手する
- Excelの顧客情報を次に整理する
- 口頭・メールの承認は最後に回す
| 業務 | 関わる相手 | 着手する順番 |
|---|---|---|
| 紙の日報・勤怠 | 社内のみ | 1番目 |
| Excelの顧客情報 | 社内のみ | 2番目 |
| 口頭・メールの承認 | 取引先など社外を含む | 3番目 |
業務の棚卸しで何件書き出せばよいのか、どの物差しで順番を決めるのか
書き出す件数の目安は20〜30件で、順番は削減時間・費用・難易度の3つで決めます。
件数を絞ると、比較する対象が少なくなり、AI化すべき業務を見落とします。逆に件数が多いと、兼務の担当者が本業と並行して処理できません。20〜30件という範囲は、比較できる量と、1人で扱える量のバランスを取った数です。
書き出したあとは、削減できる時間が大きく、費用が小さく、難易度が低い業務から着手します。この3つの物差しは順番が入れ替わりやすいので、担当者が優先順位を確認します。表や一覧にして並べておくと、社長にも見せられる形になり、後の承認も取りやすくなります。
- 削減時間:どれだけ時間が減りそうか
- 費用:ツールや外部依頼にかかる金額
- 難易度:現場で使いこなせそうか
兼務の担当者が本業と並行して回すために、社長へ何を承認してもらうか
社長には、対象業務・かける時間・止める判断の3つを事前に承認してもらいます。
- 最初に手をつける対象業務を1つに絞ってよいこと
- 本業の一部を、DXの作業時間に充ててよいこと
- うまくいかなければ途中で止めてよいこと
兼務の担当者は、本業を止めて全力投球することはできません。だからこそ、着手前に「この業務にどれだけの時間を使ってよいか」を社長と合意しておきます。ここが曖昧なまま進めると、本業が忙しくなった月にDXの作業が後回しになり、そのまま止まります。
あわせて、途中で止める判断も先に取っておきます。試した業務が思ったほど改善しない場合、担当者だけの判断で撤退できるようにしておきます。そうすれば、無理に続けて時間を消費する事態を防げます。
対象から外すべき業務(安全に運用できない業務)の判断
安全に運用できないと判断した業務は、AI化を進めません。顧客の個人情報や取引条件など、外部に出せない情報を扱う業務がこれにあたります。
どの情報を入力してよいかが決まっていない状態で業務をAI化すると、機密情報を誤って外部に渡してしまう事故が起きます。情報を公開・社内限り・取扱注意のように機密性で段階分けしておくと、対象から外すべき業務も見分けやすくなります。この分け方は、生成AIの社内ルール、何から決めればいいかでも詳しく扱っています。
判断に迷う業務は、無理に最初の対象へ入れません。安全に運用できるかどうかがはっきりしない業務は、後回しにして構いません。判断が固まってから、あらためて棚卸しのリストに戻せば十分です。
- 顧客の個人情報や取引条件を含む業務
- 法令や契約で人の判断が必須と決まっている業務
- 入力してよい情報の線引きがまだ決まっていない業務
最初の1業務が動いた後、2件目へ広げるときに起きること
2件目へ広げるときは、1件目で作った手順書の型がそのまま使えないことがあります。業務ごとに扱う情報も承認の流れも違うためです。
1件目がうまくいくと、社内の期待が上がり、複数の業務を一気に進めたくなります。しかし、担当者は依然として兼務のままです。同時に動かす業務は1つに絞ったほうが、手順書の見直しやプロンプトの調整に手が回ります。
2件目を選ぶときは、1件目の対象業務と同じ部署・同じ担当者の業務を避け、負担が集中しないようにします。1件目で減った時間の記録が、2件目を社長に説明する材料としてそのまま使えます。
- 1件目とは別の部署・担当者の業務を選ぶ
- 同時に動かす業務は1つに絞る
- 1件目の記録を2件目の説明材料に使う
外部に頼むとき、月額に何が含まれ、日々の運用を誰がやるのかの線引き
月額に含まれるのは業務の棚卸し・ツール選定・手順書作成・社内ルール整備・効果測定までです。日々の運用は自社の社員が行うのが基本です。
外部に依頼する際に確認すべきは、月額の金額そのものより、その金額に何が含まれているかです。例えば当社のAI顧問では、月額5万円がチャット中心、月額10万円が業務の棚卸しから手順作成まで、月額30万円が要件定義・設計までを含みます。初期費用はいずれもかかりません。ただし日々の運用の代行は行いません。基本的な設定と運用は依頼した会社の社員が担います。
当社が2026年9月3日時点で、「AI顧問」を名乗る25社の公式ページを直接確認したところ、料金に含まれる範囲は会社ごとに差がありました。月額が高くても実装が別見積りの会社がある一方、月額8万円で実装まで含む会社もあります。金額の比べ方はAI社長・AI顧問の費用相場|25社の月額料金と価格帯ごとに含まれる内容にまとめています。
| 確認する項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 含まれる作業 | 棚卸し・選定・手順書作成・ルール整備・効果測定のどこまでか |
| 日々の運用 | 依頼先が代行するか、自社の社員が行うか |
| 初期費用 | 初期構築費やロードマップ作成費が別にかかるか |
| 最低契約期間 | 6ヶ月・3ヶ月・期間なしのいずれか |
外部に依頼する前に、月額に何が含まれるか、日々の運用を誰がやるかの2点を見積書で確認してください。この2点が曖昧なままだと、契約後に「思っていた作業をやってもらえない」という食い違いが起きます。
効果を社長へ出すとき、何を数字として記録しておくか
記録するのは、対象業務ごとに減った作業時間です。着手前の所要時間と、着手後の所要時間を月ごとに比べます。
業務ごとに時間を記録する理由は、業務によって効果の出方が違うためです。1つの業務だけを見て「DX全体がうまくいっている」と判断すると、次の業務選びを誤ります。記録は複雑な指標を作る必要はありません。着手前にかかっていた時間と、着手後にかかっている時間を、対象業務ごとに月次で並べるだけで十分です。この記録が、2件目以降の業務を選ぶ判断材料にもなります。
当社が行うAI顧問の支援でも、3ヶ月目に減った時間を月次のレポートにまとめる作業を行っています。読者の会社で自力で記録する場合も、記録する項目そのものは同じです。対象業務・着手前の時間・着手後の時間を、月ごとに1枚の表にまとめておけば足ります。
ツールを先に選んでしまった状態から立て直す手順
ツールを先に決めてしまった場合は、いったんツールを脇に置き、対象業務の棚卸しからやり直します。
ツール選定が先に進んでいる会社の多くは、「そのツールで何を解決するか」が定まっていません。おすすめのツールを比較する記事を読んでも決まらないのは、使う業務が決まっていないためです。この立て直し方はAIエージェントのおすすめ比較の前に決めること。中小企業の選び方と導入手順でも扱っています。
立て直す手順は、まず今持っているツールを使い続けるかどうかを一度保留にします。次に、業務の棚卸しをやり直し、削減時間・費用・難易度で対象業務を決め直します。そのうえで、既に持っているツールがその業務に合うかを確認し、合わなければ別のツールに切り替えます。
- 今のツールの利用を一度保留にする
- 業務の棚卸しをやり直す
- 削減時間・費用・難易度で対象業務を決め直す
- ツールが合うか確認し、合わなければ切り替える
社内ルールをどの段階で整えるか(着手前か、使い始めた後か)
社内ルールは、着手前に最低限の線引きだけ決め、使い始めたあとに整えていきます。着手前に完璧なルールを作ろうとすると、それだけで数ヶ月かかります。
着手前に決めるのは、入力してよい情報といけない情報の線引きです。顧客情報や取引条件などを機密性で段階分けしておけば、業務を1つ動かせます。細かい運用ルールは、実際に使ってみて出てきた困りごとに合わせて後から整えるほうが、実態に合ったルールになります。
ルールをどう作るかの手順は、聞き取りから周知までを扱った中小企業の生成AIガイドラインの作り方と、最初に決める3つの項目にまとめています。ひな形をそのまま使いたい場合は生成AI利用規程のひな形を自社用に書き換える手順と入力禁止情報の線引きを参照してください。着手前と着手後、どちらの段階でも参照できる内容です。
よくある質問
中小企業のDXの失敗事例は?
多い失敗は、対象業務を決めないままツールだけを先に選び、現場で使われずに終わるパターンです。棚卸しをせずに始めると、削減できる時間が小さい業務に手間をかけてしまい、社長への説明材料も残りません。
中小企業のDXが進まない理由は何ですか?
専任の担当者がおらず、兼務の担当者が本業と並行して進めるための時間配分を社長と合意できていないことが理由です。対象業務も決まらないまま総論だけを調べ続け、着手のタイミングを逃します。
まとめ
- 最初にやるのは業務の棚卸しで、20〜30件を削減時間・費用・難易度で並べる
- 1ヶ月目に対象業務を決め、2ヶ月目に試用し、3ヶ月目に改善と記録を行う
- 着手する順番は、社内で完結する定型業務から、社外が絡む承認業務は最後
- 安全に運用できない業務は対象から外し、社内ルールは着手前に最低限だけ決める
- 2件目へ広げるのは、1件目の記録が社長への説明材料になってから
まずは自社の業務を思いつく範囲で20件ほど書き出し、削減できそうな時間の大小だけでも並べてみてください。社長に相談するときは、対象業務・かける時間・止める判断の3つを持っていくと話が早く進みます。会社として外部に任せる段階まで来たら、フォームからご相談ください。
